雑誌30年分を業者市に持って行った時の話

寝かしつけのコツは、「寝てしまうのでもなく、寝ずに目を閉じて子供たちが寝るのを待つのでもない、その中間を維持すること」だと思っています。


寝かしつけをしているはずなのに自分も寝てしまっては寝かしつけ成功とは言い難いです。


9時に寝てしまい、深夜2時に目が覚めて眠れなくなって「純粋理性批判」を読むことになる…幾度も重ねてきたことですが(^_^;)、これは明らかに寝かしつけ失敗です。


それとは反対に、寝ないで目を閉じて子供たちが寝るのをひたすら待つ…これも失敗とまではいきませんが、最善ではありません。子供たちもその姿に気付いているのかわかりませんが、寝ないで遊び始めてしまいます。


では最善の寝かしつけとは、と問われたら、それはまさに「寝てしまいそうになりながらも、辛うじて意識を保ちながら目を閉じて過ごすこと」だと思います。


一体突然何の話なのかと思われたかもしれませんが(^_^;)、これは古本業にも当てはまります。


古本屋でも自分の好きなジャンルの本があり、それらを買取りさせてもらう時、その本を特別視して別の査定を行ってしまいそうになることがあります。


ですが本には相場というものがあり、相場から外れた買取り額では商売が成り立つ見込みはありません。


なので相場を意識した査定額を出すわけですが、ならば好きなジャンルの本もドライにその他の本と同じ査定額でいいのかという別の問題も発生します。


「それは問題ではないのでは」と思われるかもしれませんが、長年この商売を続けている内に、それは明らかな問題であると思い始めるようになってしまいました。


この話は長くなるので置いておくとして、とにかく古本業のコツは「商品に惚れ込みつつも、相場も意識する」こと。


まさに「寝てしまいそうになりながらも、辛うじて意識を保ちながら目を閉じて過ごす」ことなのです。



先日、ちょうど交換会に出す荷物を作っていると、数ヶ月前に買取した雑誌の山と目が合いました。


とある雑誌が30年分。なにかラノベのタイトルのようになってしまいましたが(^_^;)、とにかく目が合ったのですからこれは交換会の荷物として出す運命。そう思ってこれらも持っていくことにしました。


1年を1本で縛って30本。量としてはなかなかの荷物です。そして車に積んであるだけでもその姿は壮観で、絶対に面白いと思ってくれる人がいるに違いないとその時は半ば酔っているかのように思い込んでしまっていました。


そして交換会に持っていくと経営員さんがその山を上手く並べてくれました。


背丈にして私とほぼ同じくらい(175cmくらい)の山が建築物のように積みあがっています。


お膳立ては整った!あとは入札を待つだけだ!


そんなふうに思っていたのですが、同業者が話をしているのが耳に入ってしまいました。「こんな大きな荷物持って帰るのも大変だよな」と。


酔いが一気に醒めます。確かに大変だ。壮観なその姿に酔って最も大事な本質である「同業者がそれで商売できるかどうか」という点に全く目が行っていませんでした。


雑誌の揃いというのは曲者で、大したことのない雑誌でも数年、数十年まとまればそれなりの代物のようにも見えてしまいます。


そしてそれなりに見える山には相場に合わない値を付けることもしばしばあり、これはさながら「雑誌に当たった」というか「雑誌中毒を起こした」というか。


ですが山になっている全ての雑誌がダメかというとそうではなく、そして相場があるのかないのかよくわからない雑誌も多く、玉石混淆といったところだと思います。


なので問題は私が酔っているだけなのかそうでないのか。問題はそこにあるわけです。


もしかして私は寝入ってしまったのではないか、「同業者がそれで商売できるかどうか」の一点に全く目を向けず、商品それ自体に惚れ込んでしまっただけなのではないか。
    


商売人として完全に失格。ですが今となっては後の祭りで、もはや入札を見守るしかありません。


そして入札が始まります。私も他の口に入札しなければいけないのですが、ずっと見ていました。雑誌30年分の山の前に立つ同業者たちを。



その大山を興味深そうに見ている人もいました。


紙とペンを持ちながら、いくらの札を入れようかと真剣に見ている人もいます。


ここが売れそう、売れなさそうと談笑している人たちもいました。


年間揃いなのかどうか実際に指を指しながら確認している人もいます。


ですが彼らは時間をかけて一通り見た後、少し首をかしげながら札を入れることもなくその場を去っていくのでした。

はなひ堂ブログ 2018年11月14日