夏ごろにお売りいただいた参考書の話

たしか夏ごろだったと思うのですが、「明日には解体業者が入ることになっている。今日しか時間がないので今から本を買いに来ないか?」という電話が入りました。


突然の出張買取依頼というのはよくある話です。


なぜ突然の依頼になるのか真相は不明ですが、やはり「今日でないと無理なので今日来てほしい」という依頼は年間を通して何度もあります。


そして私もほかの買取依頼が入っていない限りできるだけ行くようにしています。


また、私に予定があっても弟に行ってもらうこともあります。


この依頼を受けた時も事務所でレシートをまとめている最中だったので、それを放り出して出張買取に向かったのでした。


お宅に着くと12畳の部屋の3面が本で埋まり、なおかつ部屋の真ん中には本棚が8本ならんでおり、ちょっとした古本屋のような部屋になっていました。


すごい本の量ですねとご主人にお伝えすると「いやー親族の遺品なんだよ」とお答えになりました。


あまりの量のため全ての本を積むことはできませんとお伝えすると、「おたくの欲しい本だけで構わない」とお答えいただきましたので、それに従わせていただきました。


三条市からはほど遠く、往復するのは無理な距離で、弟と車2台で来ればよかったと後悔しながら本を選別し始めました。


本を選び、積み込み、を繰り返して4時間、そろそろ一通りの本を見終わり、なおかつ車にはもう積めないということになり、お暇しようとご主人の元に向かおうとすると別の部屋にいた奥さんに呼び止められました。


「すみません。押入れを開けたら本が出てきまして…」


押入れの中も本がびっしり。


上段(押入れの上を「上段」といっていいのかはわかりませんが)には「世界の名著」や「日本古典集成」などの全集の類が埋まっています。


面白そうな全集がチラホラあり、ほぼ全てにお値段が付きそうでした。


ただ私の目は上段を一目チラリと見ただけで、下段に釘付けにされていました。


下段には冒頭の画像にあるような昔の参考書(1960~1980年代)がびっしりと入っており、ここまでまとまった冊数を見たことはありません。


昔の参考書は売れるのか?そう思われる方は多いと思いますが、昔の参考書には売れるものもあります。


もちろん全てではないのですが、売れるものはあります。


売れるものも売れないものもあるのですが、英語、数学、現代文の3つに関しては売れるものも多いという印象です。


ただ難点が一つあります。


それは誰がどのようなニーズで買われているのか皆目見当がつかないということです。


考えてみれば大学受験という文化は1950年代にはすでにあり、長い歴史を持つ文化と言えそうです。


そしてそれを支えてきた受験参考書にも当然歴史があり、1960年代からのものも見つけることができるということは(「赤本」が1954年からですのでもう少し前からあるようです)、そこにも歴史があると言えると思います。


そして受験で求められる要素が変化していけば、受験テクニックも変化してきたのではないでしょうか。


そして受験テクニックも変化すれば参考書も当然求められる要求に答えようと変化してきたはずなのです。


そして2017年、一体どのような受験のテクニックが必要とされているのか私には見当もつきません。


ただ、過去にその答えを探そうとしている者がいるとしたら。


「2017年は1970年にそっくりだ」そう思う者がいるとしたら。


あるいは「今年はもう少しひねった問題を出したい」と過去に答えを探す出題者がいるとしたら…


上段の全集と下段の受験参考書の両方を積むことはできません。


物理的に不可能で、そもそもパンパンになった今の車の状態でも警察に呼び止められないとも限りません。


どちらかを選ばなければいけない。相場のわかっている上段と、相場不明で売れるかどうかわからないが滅多に見ることのない下段…


こういう時の古本屋は博徒です。


私は迷うことなく下段の本を取り出し、スズランテープで縛り始めました。


売れるか売れないのかわからない本を買うのは慣れているのです。


そして現在、その時に買った参考書は思い出したようにではありますが、かろうじて売れてはいます。


やはり現在の古本の情勢と同じように、「すごく売れる」ということは全くなく、思い出したように棚からなくなっていきます。


その参考書が並んでいる棚の前に来ると「ああ、あの本いなくなったな」と少し寂しくも感じますが、買ってきてよかったとも思います。


そして全ての販売をネットで行っている当店ですので、未だに参考書達が「どのようなニーズで」売れていったのかわからないままでいます。


「どうしてこの本を買われたのですか」もちろんそんな連絡をすることはできませんが、ニーズがあることは確かなようです。


数か月経って、なんとか仕事ができたのではないかとホッと胸をなでおろしています。

はなひ堂ブログ 2017年11月8日