不動産屋さんに伺った時の話

前にとある不動産屋さんのところに出張買取に伺った際に、「不動産購入は結婚みたいなもので、勢いも大事です」ということをお聞きしました。


その時はなるほどな、と思ったのですが実際に腑に落ちるまでには至っていなくて、うまいことを言うもんだなぁと感心していたのみでした。


私は不動産購入とは無縁に生きてきて、今現在も住まいは賃貸、仕事場も賃貸というスタンスで、それは特にポリシーがあってそうしているわけではなくて、ただ単に縁がなかった(またはお金がなかった(^_^;))からなのですが、そもそも不動産購入を検討したこともありませんでした。


なので「不動産購入は結婚みたいなもので、勢いも大事です」と言われてもピンとくるわけもなかったのですが、なるほどと思ったのは、出張買取も似たようなものだと思ったからです。


出張買取もそれなりにまとまった数の本の処分をご依頼頂くことが多く(そうでないとこちらが伺うことができないという理由もあります)、そうなるとご依頼頂く方は相当の覚悟と思い切りが必要で、実際私も現場でその覚悟を感じたり、またはいざ伺うと躊躇いも見られる方がいたりもして、こちらも身が引き締まる思いがすることも多々あります。


ですので件の言葉を半ば出張買取に当てはめて受け取ってしまっていたのですが、もちろん文字通り不動産購入の格言として頭で理解できてはいるつもりではありました。


それから何か月も経ち、そんなことはすっかり忘れていた頃に、今の倉庫から一部業務を移動することを検討する機会があり、その時に不動産屋さんに飛び込んだことがありました。


これこれこういう条件で…と不動産屋さんにお伝えしまして、その時ももちろん賃貸で倉庫を探すという頭しかなく、購入という考えは全くありませんでした。


条件を聞いて不動産屋さんは「なるほど。ところで賃貸じゃないとダメな理由があるのですか」とおっしゃいます。


「いえ、特にダメというわけではありませんが、購入は考えたこともないです」とお伝えすると、「実は賃貸ではないのですが、条件にピッタリの物件があります。見てみますか」とおっしゃるので、カタログを見せてもらうと、たしかに良さそうな物件でした。


なのでそのまま内見もさせてもらうと、少し気になるところはありますが、とても良さそうです。


とはいえ大きな買い物になりますので「買います!」とその場で言うわけにはいかず(後から考えるとその場で決めてもいいのかもしれません)、一旦結論を持ち帰りました。


それから数日間は色々な人に意見を聞いたり、購入後のシミュレーションをして検討していました。


検討といっても、あの本をこう移動して何年で返済して…などとシミュレーションといえば言葉はいいが、半ば机上の空論のような空想をしていたずらに時間だけが過ぎていくだけのような気もしていて、ですがその時は本気で考えていたつもりでした。


そんな私の不甲斐ない状態を見透かしたように不動産屋さんから電話がかかって来ます。


「実はあれから色々あって、今から一週間以内に決めてほしい」とおっしゃいます。


不動産購入素人ですから少し焦りつつも、よくあることなのかとも思い、どうしたらいいか必死で考えて検討します。


ですが検討(空想)はすでに終わっており、実際に品物を入れて業務を動かしてみないとわからないことのほうが多いし、人に意見を求めてもピンと来ないという結論に達しています。


その時に冒頭の不動産屋さんの言葉を思い出しました。「不動産購入は結婚みたいなもので、勢いも大事です」。


不動産購入の経験はありませんが、結婚の経験はある(というと語弊があるのですが、今も結婚しています(^_^;))のでその観点から言うと、結婚は「勢いも大事」というのは完全なる真理です。


そして結婚というのは唯一無二の相手がいて、その相手との関係と周りの状況がピッタリとするような状況(勢い)が結婚に至らせる…これは言葉を変えると不動産購入と全く同じです。


不動産購入というのは唯一無二の物件があって、その物件を購入する状況がピッタリと業務と一致する状況(勢い)が不動産購入に至らせる…。


つまり私の今の状態とは、結婚に踏ん切りがつかないグダグダな状態ということであり、そのに業を煮やして相手が期限付きで回答を迫ってきている、そんな状態なのではないでしょうか。



結局その物件の購入は期限一週間も待たずに私から「すみません一週間では決められません」と電話をすることでお流れとなりました。


しかし一つだけ言い訳させていただければ、考えに考えた末に熟成される決断というものもあるような気もします。


つまり一週間という期限付きで勢いをつけることだけでなく、熟成によって決断に至る思考もあるはずです。


ですがそんなことは後の祭りで、不動産屋さんも人を見るプロ。私があまりに不甲斐なく見えたのでしょう。あいつは一週間という期限付きでないと結論を出せないタイプだ、と判断されたのかもしれません。


今は他の方が購入してご商売されているその倉庫の前を車で通ることがあります。


その度に「不動産購入は結婚みたいなもので、勢いも大事です」という言葉と共に、私の勢いが足りなかったことを少し焦燥感を伴いながら思い出します。

はなひ堂ブログ 2019年10月7日